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クノテックのスタッフは、バイクを心から愛しています。
自分たちが日ごろバイクに親しむなかで、こんな工夫があったらいいな、こんなデザインのものがあったらいいなと夢見る製品を、最高水準のものづくり技術を駆使して実現化し、多くのバイク・ライダーの皆さんと夢を追究したいと思い始めたのが開発の原点です。
ここからのお話は、いささか長い物語になりますが、クノテックが日々どのような思いで製品づくりに臨んでいるのか、そしてお客様にどのようなサービスをご提供すればバイクライフを豊かにできるのかを、つぶさに知っていただき、クノテックの製品開発を支える理念を感じていただければ幸いです。
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バイクという乗り物のなかでも「シート」という部品は、人がバイクともっとも長くふれあう部分で、乗り心地やライディングフォームを左右する重要なポイントですから、安心して身をゆだねることができるように、いっさい手を抜かずにつくりこむことが肝心です。バイクメーカーも、その点を重視して製造しておりますが、さまざまなライダーの体格や乗り方の違いもあって、人によっては必ずしも最適なシートとは言えない場合があります。そこで、多くの方は、表皮を剥いでウレタン部分を加工したり、外製品メーカーが製造販売する既成のローシート仕様やハイシート仕様に変更して、それぞれの乗り手に合わせたシートが選ばれています。
表皮を剥いだシート本体のウレタン >>
このウレタンを削って調節していく作業はシート本体の造り替えになりますが、弊社では、シート本体には一切手を触れません。
クノテックは、自動車を含むあらゆるシート製造や繊維関連の設計・加工に高い技術力をもっております。ウレタン加工やシート表皮のフィッティングによって個人の体型に合わせたオリジナルシートも難なく製造することは可能ですが、クノテックが今もっとも注目しているのは、シート本体にかぶせるシートカバーの製造です。
K1200LTのノーマルシート
Gentlex装着前
K1200LTのノーマルシートに
Gentlexを装着しようとするところ
バイクをドレッシーにカスタマイズするとき、外観のなかでもっとも雰囲気を変えやすいポイントは、シートのカラーとデザインです。シート本体は活かしながら、そこに被せるシートカバーによって、バイクを華麗にドレスアップでき、快適性を向上させることができます。ライダーのなかには、シ ート生地も好みのものに張り替えて、クッション性能や形状も調整した完全オリジナルシートを特注される方もおり、乗り心地を自分好みに改善して快適性を追究するためにはとても大切なことですが、当然のことながら高額なコストがかかっています。
<< シート本体に密着するカバー
K1200LTにメッシュカバーGentlexを完全に被せ終えた状態。(ブルーのダブルステッチを縫い込んだ特注品)
クノテックでは、そこまでシート本体を加工せずとも、高品質で美しいメッシュカバーを装着するだけで、お客様のバイクを他車とは一線を画すエレガントなバイクに変身させるデザインと技術に磨きをかけてきました。その結果、クノテックは、どなたにも楽しんでいただける汎用性のあるメッシュ カバーによって、シート本体にいっさい手を加えることなく原型を活かす一方で、高額な加工品をはるかに凌駕する美しいシート・デザインをリーズナブルに実現するという、まったくベクトルの違うふたつの要求をひとつの理想に結晶させることに成功しました。これが、バイクシート加工分野で初のデザイナーズ・シートカバーというジャンルを確立した背景です。シートカバーなのに、まるでシート本体の表皮と見間違えるような完璧な曲面構成とテンション、そして美しいデザインをお約束します。
<< シート本体の曲面を完全再現
お客様のアイディアによるブルーのダブル・ステッチが、流れるように粋なラインを造形しています。バイク全体が、さらに上品で風格のあるデザインに生まれ変わりました。
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クノテックは、あらゆる繊維素材を研究しておりますが、バイクのシートカバーとして肌触りも良く、ライディングで腰をずらしても引っかかりにくい生地となりますと、メッシュ生地は非常に適合した素材であることがわかりました。通気性がよいために、夏場のツーリングでは蒸れにくいという利点もあります。また、すでに装着されたお客様のなかには、乗り心地が良くなったという方もおいでになり、薄手の素材なのに適度な柔らかさをキープするメッシュ生地は、とりわけロング・ツーリングでは威力を発揮するようです。
Gentlexに採用されるメッシュ生地 >>
乗り方の違いを含めて、これらの感想には個人差はあると思われますが、メッシュカバーの機能面でのメリットは、炎天下で長く置いたバイクにまたがる場合、ビニール表皮のままのシートでは熱くて大変な思いをすることが多いのですが、メッシュカバーを装着していれば高温にならずに済むことです。さらに、熱のみならず、ブーツなどによる引っ掻き傷からもシート本体を守ってくれます。もし車両を売却される場合でも、シート本体を最小限の傷や汚れで済ませることができれば、リセールバリューにも反映される効果を生みだします。
R1100RTのシート裏面
Gentlexのマジックファスナーを留める前の写真
R1100RTのシート裏面
マジックファスナーを留めてテンションを張った状態
メッシュ生地以外の素材でもシートカバーを製造することは可能ですし、それら標準外の仕様につきましては、ご注文の際にご相談いただきたいと思いますが、メッシュ生地の特徴は、繊維に腰がありながらも非常に弾力性に富んでいますので、加工がしやすいことです。複雑な形状のシートにも合わせやすく、経時変化によって凹みのついたシートにもフィットします。また、乗りなれてシート本体との間に緩みが出た場合でも、シート裏面に渡したマジックファスナーの締結部分で調節すれば、メッシュカバー生地表面のテンション(張り具合)を簡単に変えることができ、高い仕上がり感をいつまでも維持することが可能です。
もうひとつの大きな特色は、カラーリングが豊富なことでしょう。メッシュ生地には、現状では12種類ほどのカラーをご用意しておりますから、それらの色を組み合わせて、自分だけのカラーリングを楽しむことができます。こうしたアレンジは、設計の前段階からお客様とともに楽しく決めていくことができます。
<< ロット状態のメッシュ生地
現在のところ、最も汎用性のある12色をメッシュ生地としてスタンバイさせています。
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この地方は、かつては足利将軍家を支える細川・仁木・吉良・今川・一色といった有力な御家人たちが所領をもち、戦国時代には松平家が頭角を現し、一族のなかから徳川家康が出て天下を統一したという、歴史の転換点を担った土地です。
東条城跡(西尾市吉良町) >>
足利義氏の息子が城主となり、代々の吉良氏を受け継いでいきます。この吉良氏につながる家門に、『忠臣蔵』で描かれた吉良上野介が登場しますが、地元では善政を敷いた領主として現在も尊崇を集めています。
わたくしどもクノテックは、愛知県西尾市に本拠を置いています。トヨタ自動車の本社がある豊田市と同じ西三河地方に属していますが、周囲には、トヨタ自動車のグループ会社や無数の下請け工場群が集まり、世界一の自動車製造工業地帯を形成しています。
<< 愛知県西尾市の市街地中心部にある西尾城
その家康の天下取りに奔走して名をあげた武将を数多く輩出したのも西三河地方ですが、三河武士団と呼ばれた彼らは、勇猛果敢で忠義心に厚く、粘り強く事に当たり、無骨ながら二枚舌を嫌う実直さが特徴で、徳川家を自分たちが支えるという自負があった人たちです。その多くは、江戸幕府が開かれると、江戸へ移ったり、全国各地の藩に散って徳川家の経営哲学を広めますが、三河には彼らの気質を育んだ風土が変わらずに伝えられていきました。
<< 『徳川十六将図』(浜松市博物館蔵)
徳川家康を筆頭に、彼を支えた16名の忠臣たちが描かれています。鉄壁の三河武士団は、家康の天下統一を実現させますが、日本各地の諸藩に散って、三河武士の領国経営方式や倫理観を広めていきました。家康は、武家の軍事衝突で二度と国内が血で血を洗う抗争に巻き込まれないように、緻密な支配体制を作り上げていきます。トヨタ自動車の労使一体・労使協調といった経営哲学は、この三河地方に根付いた三河武士団の結束力の伝統と、根気よく物事に取り組む気風が影響しているといわれます。
その風土に培われた三河人気質が、のちに自動車産業をはじめとする「ものづくり」を支える原動力となっていきます。戦後の高度経済成長の時代には、三河人のコツコツと実直に事を進める根気よさや、細かいことを疎かにしない丁寧さを工業技術や組織運営に活かしながら、三河から東海地方全域に広がる自動車産業全体の底上げが始まりました。トヨタの自動車も、こうした風土から生まれた工業製品のひとつですが、Made in Japanというよりも、Made inMikawaと表現する方がしっくりきます。
国産スポーツカーの傑作 トヨタ2000GT(昭和41年頃) >>
遠州人がもつ新しもの好き・祭り好きな気風が生み出したヤマハのDOHCエンジン技術とのコラボレーションで開発された永遠の名車です。
(写真提供:clicccar)
細かいことを疎かにしない、できない三河人気質は、生真面目で融通が利かないといわれていますが、それは自分が携わった仕事のやり方が甘かったせいで他の人に迷惑がかかることを恐れるからです。「まあ、仕方ないか」と開き直る豪胆さがないといいますか、慎重で心配性なのでしょう。
爆発的なヒットを記録してトヨタ急成長の鍵を握ったカローラ >>
(トヨタ博物館蔵)
ホンダやヤマハといった遠州人気質が生み出すスピード感や近代的なセンスとは異なりs、大衆が安心できる耐久性の高い良品を生み出す技が、三河人ならではの特質です。よくトヨタは地味だといわれますが、派手さよりも慎重に質実さを追究する流儀なのです。
しかし、その気質が、無責任なものづくりを赦さなかったのです。たった1か所の数ミリの誤差が、車の安全性を奪う危険につながることを骨身に沁みてわかっている自動車産業界では、人の命を乗せる機械を製造しているという責任感を下請け工場のすみずみまで共有しようと努めています。こうした注意深いシステムも、三河人気質が生んだものでしょう。
<< レクサス・ブランドを生みだす職人技(日経ビジネスより)
0.5㎜の誤差も認めず、0.25㎜の誤差範囲にまで精度を高めるための検査。すべてにOKが出なければ、次の工程に車両は進んでいきません。愛知県の東三河にあるトヨタ田原工場で行なわれている厳しい作業です。
三河地方を含む東海地方のものづくりの哲学は、ここから出発してここに帰ってきます。その責任感を生産に関わるすべてのメーカーが共有したうえで、ものづくりに携わる者は、創意工夫に努めます。近年では、海外との価格競争や内需がしぼむデフレ経済がつづくなかで、下請け会社も生産調整や値下げに苦しんでいますが、そういうときだからこそ、現場では生き残るための知恵を絞るチャンスなのです。
わたくしどもクノテックも、こうした厳しい生産現場で、自己管理の徹底と仕事に創意工夫をもつ大切さを共有してきました。「安かろう悪かろう」 は当たり前ですし、「良い製品は高価」も当たり前ですが、こうした常識を脱却して、「良い製品をより安く提供する」ことを目指してこそ、ユーザ ー=販売者=製造者という喜びの等式が成り立つのです。生産現場の職人がもっとも嬉しいこと、それは、自分が創意工夫して手掛けたものをお客様 が喜んで使って下さるという一点に尽きます。
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これまでにご紹介したとおり、愛知県の西三河地方を中心に東海地方全域には、高い技術力をもつ工業系の企業が集積しています。会社規模の大小を問わず、すぐれた技をもつ職人さんがそろっているのも東海地方の大きな特色です。
しかし、なかにはすぐれた技術力をもちながらも、下請け業務に専従せざるを得ない中小企業が存在し、ポテンシャルを発揮できずに切歯扼腕(せっしやくわん)している企業があることも事実です。クノテックでは、東海地方ならではの地の利を活かして、こうした企業の高度な技術にサポートしていただき、最良の製品を生み出す工夫を始めました。
製造してきた型紙がずらりと並ぶ工房内 >>
シートカバーの企画と型紙製作については、それらの協力工場と綿密に打ち合わせしてじっくりと設計していきます。複雑な形状のシートであればあるほど、型紙設計にファイトを燃やす研究熱心な設計者ばかりで、すでに完成した型紙であっても、次回の製品化に際しては、またゼロから検討してフレッシュなデザインを生みだすこともあります。
そして型紙設計が完成すると、それに合わせて素材カット、縫製、仕上げ…と現場の作業が始まりますが、ここでは、ものづくりの心から技術までを徹底的に教えられ習得したスタッフが、熟練した手さばきで丁寧にカバーを縫い合わせていきます。なかには、日本人の技量を超えて最高のパフォーマンスを発揮する東南アジア出身のベテラン職人もいて、むしろ近年では、この縫製分野では主役の座を勝ち取っています。
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クノテックでは、目の届く範囲に仕事の領域を限定し、エンドユーザーの皆様のお気持ちや考え方、好み、理想などがよく見える環境で、ものづくりを進めています。また、お届けした完成品を実際に使用していただくなかで、新しいご意見をいただけば、すぐに生産現場にフィードバックして改良改善に努めます。のみならず、いただいたご意見からヒントを得て、まったく新しい次の製品開発につなげるフィードフォワードにも常に挑戦しております。
お客様から寄せられたメッシュカバーのデザイン案(R1200GS)
おおよそのイメージをこうしてお送りいただき、お電話やメールなどで細部を詰めていきます。誤解や間違いがないよう、設計に入るまで、この確認作業は続きます。
お客様から寄せられたメッシュカバーのデザイン案(R1200R)
ご自分の愛車を、弊社にもわかりやすいアングルで撮影していただきペイント・ツールで配色イメージやステッチの入れ方なども描いていただきました。とてもわかりやすいご提案で、お気遣いに深く感謝いたしました。
<< 大手ディーラー様からの発注指示(R1200GS)
専門的なことがおわかりのディーラー様からも特注品の製作指示をいただいておりますが、たいへんわかりやすく、これらの写真や指示を見ながら、具体的にお話を進めやすくなりました。
こうしたお客様と近い製品プロデュースの魅力は、企画→提案→構想→問題解決→材料選定→発注先選定→生産現場(設計・素材製造・加工)→検査→出荷という、一連の長い工程をすべてクノテックが現認しながら完全管理できることです。
三現主義といわれるものがあります。「現地、現物、現実(現認)」すなわち、現場に足を運び、手に取って現物を確かめ、状況や事実を知った上で問題解決を図る、という仕事の在り方です。クノテックが、お客様からいただく声を重視し、ときには、直接シートをお送りいただいて、現物を徹底的に分析するのは、こうした手間をかけなければ、自信をもって良い製品を生み出せなくなるからです。
製造期間中はシート本体を弊社に預けていただく場合がありますが、完成品を無事に愛車に装着し、実走していただいたあとのお客様のご感想も大切にしています。
クノテックのメッシュカバーは、ひとつひとつが手づくり生産のために、お客様には長い製作期間をいただき、我慢を強いることになりますが、それだけの価値ある製品をご提供できるという自信と自負があります。たとえば、設計図を起こすためにシートをお預かりしている間、お客様がバイクに乗る楽しみを奪ってしまうこともよく認識しています。そのお時間をいただく大切さは、同じバイクライダーとして身に染みて理解できますので、それだからこそ、より一層よいものに仕上げたいと思いながら、製造に携わっております。
クノテックは、日々改善・改良を目ざし、進化する製品づくりをお約束いたします。「進化する製品」とは、材料の変更、型紙の微調整や修正などを常に行なっているということです。一旦完成したら、ものづくりはそこで終了…そんなことはあり得ません。売りっ放しではなく、常にお客様からの使用感やインプレッションを直接伺うことができる風通しのよいアクセス環境を構築しております。
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R1100RTリヤシートに被せるメッシュカバーの試作と改良
生地のテンションは最良の状態に調節できましたが、リヤシートを支える2本出しの脚の部分のくり貫き穴が微妙に合わず、白チョークでマークアップし、再度穴開け位置を検討したときの試作品です。
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R1100RTフロントシートに被せるメッシュカバーの試作と改良
曲面をきっちりと再現するには、縫製ラインをどう仕上げるか、そしてテンションをどこにどう配分するかが鍵です。マジックテープをさまざまな箇所にサンプル的に縫い付け、カバー裏面とボディが干渉せずにカバー生地を留められるかどうかに注意しながら、試行錯誤を繰り返しました。
本音を申し上げますと、クノテックは、ご注文をいただいたお客様おひとりおひとりに、わたくしどもの製造したシートカバーを直にお手渡ししたい思いでいっぱいなのです。そこで愛機に装着していただき、テンションに問題がないかをチェックしながら、お客様の乗り心地やフィット感などについて生のお声を伺いたいのです。わたくしども技術屋が、もっとも緊張する瞬間ですが、喜びとご満足のお声をいただけたときには、それが何よりの生きがいになるからです。
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バイクシートをドレッシーにしたいとき、真っ先に選択していただけるのが、クノテックのメッシュカバー「Gentlex(ジェントレックス)」です。他社の追随を許さない「ハイ・クオリティでありながら驚くばかりの廉価」という製品開発について、クノテックの思いをご説明させていただきました。長いストーリーを最後までご覧いただき、本当にありがとうございました。
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